双剣と花束を   二話




 奈良内にある一つの山の奥んだりに『院』本山はあった。

『院』本山は大きく四つ区画に分かれている。

 紫宸殿のある第一結界区画。捕らえたヨゴレ者や妖魔を幽閉・封印している第二結界区画。修行のための施設が連なる中央区画

 そして居住区画でなりたつ。

 紫宸殿のある第一区画に直純は恭也をつれて訪れていた。二人が『院』に入ったのが二人が出会ってから一日しか経っていなかった。

 その訳は樹海を出てすぐに直純が携帯電話で知り合いの橘晴海を呼んだからである。直純の所属する組織の先輩でもあり獣聖としても

 先輩の人物だ。そして橘の空間転移の術で『院』まで運んでもらったのである。やってきた橘にことの次第を話し初めは反対していた

 ものの、重要な証人だと言ったら渋々同行を許してくれた。

「あの、本当に俺なんかがここにいてもいいんですか?なんか周囲の視線が痛いんですが」

回りを見ながら恭也は直純に言う。

「それは気のせいだ。それに最初に言ったようにお前にはあの妖魔のことをいろいろと聞かなければならない」

「ですが」

「気のせいだ」

 少し前を行く直純に恭也は言うが直純はとりつく島も無くうちきった。

「ここだ」

 直純は一つのドアの前で立ち止まった。

「直純です、失礼します」

 ドアをノックし開け入った。

「失礼します」

 恭也もその後に続き入る。

「直純君!」

 部屋の中から大きな声が響いた。思わず恭也は耳をふさいだ。

「都築か?お前がどうしてここにいる」

 直純は驚いた様子もなく普通に訊いた。

 恭也は直純に近づく少女の姿を見た。

 長い艶のある黒髪。くりっとした大きな目が印象的だ。身長は直純より少し小さいくらい。

「ん?五堂さんに呼ばれたんだよ?」

 少女―都築由花が答えた。そしてすぐに恭也に目が止まった。

「直純君?彼は?」

「ああ、今日の仕事で保護した人だ、妖魔に襲われて傷をおったからここで治療させた」

「ふーん。あっ私、都築由花よろしく」

 由花はじーと恭也を見た後思い出したように言った。

「高町恭也です。こちらこそよろしくお願いします」

「それより五堂さんはいるのか?」

「え?ううん、今は少し席をはずすって言って五分くらい前に出て行った。それから直純君が来たら待つようにって伝言頼まれてた」

 由花は恭也から視線を直純に戻しながら答えた。直純はそうか、と言い、

「そういう訳だから少し待つか」

「では俺は失礼したほうが」

「言っただろう?お前にはいろいろと聞くことがあると」

 出て行こうとした恭也に直純は言う。恭也は暫くその場に立ち尽くしていたが直純の有無を言わさぬ目に渋々頷いた。

「それじゃあ、私は先に外に出て待ってるね」

 由花は直純に言うと部屋を出て行った。

「おう、待たせたな」

 それから約十分後不精髭を生やした中年の男性が入ってきた。直純が座ってたソファーから立ち上がりお辞儀をした。

 この人が五堂さんという人だろうか?

「おう、直純、どうだったやっぱり間違いなかったか?」

 直純の向かいに座り五堂は直純に率直に訊いた。

「ええ、しかも人を使ったものでした」

「人を…か。何か……昔そんな奴がいたな。人間を使った実験ばかりしてた奴が」

 五堂は不精髭を摩りながらつぶやく。

「ほかに何か気づいたことは無いか?」

「そうですね……、後は関わった事件には必ずこれが」

 そういって直純はポケットからあの赤い宝石を取り出した。五堂はそれを手に取るとまじまじと天井の電灯に掲げながら見る。

「なんだ?これは」

「分かりません。でもそれが関わっているのは確かだと思います」

「そうか」

 寝癖のついている頭をかき手に持った宝石をテーブルに戻す。

「それで?お前の横でじっとしているやっこさんは誰なんだ?」

 五堂は直純の横でじっとしている恭也へと視線を向けた。

「彼は今日の仕事で偶然妖魔に襲われていたんです。それで何か知っていることはないかと思って」

「なるほどな。お前さん名前は?」

「高町恭也です。旧姓は不破です」

「不破…か」

 五堂はソファーにもたれかかった。

「何か?」

「いや。ただ昔の知り合いに同じ苗字の奴がいてな。もうとっくの昔に死んでるがな」

 五堂は懐かしそうに目を細めて言う。

「その人の名はもしや、士郎では?」

「そうだが?どうしてお前が士郎の名前を知っている」

「不破士郎は俺の父です」

「ほう。そうか、まあ面影が少し似てたからもしやと思っていたが」

 五堂はしきりにそうかを連呼した。暫く連呼していたが急に真面目な表情をした。

「それでお前さんは一体どうして襲われたんだ?そこんとこ詳しく教えてくれや」

「教えてくれと言われましても、俺はただ樹海で修行してまして、今日の朝食を作っていたところ後ろから急に」

「ふむ……、相手も朝飯にありつこうとしたのか」

 恭也は伏し目がちになりながら思い出し思い出し言葉をつなげる。五堂は難しい顔でじっと恭也の話を聞く。

「そうか。まあ大体分かった。ありがとよ。もういいぞ」

「そうですか。それではこれで失礼させてもらいます」

 そういうと直純はソファーから立ち上がった。恭也もそれにならって立ち上がる。

「あっと、恭也はここに残ってくれや」

「え?俺ですか」

 恭也は自分を指した。五堂は黙って頷く。

「それじゃあ、俺はこれで。後でな高町」

 直純はさっさと出て行ってしまった。

「それで俺に何のようが…」

 ソファーに座りなおし、恭也は訊いた。

「お前はどれくらいの間士郎と一緒にいたんだ?」

 恭也の言葉を途中で切り五堂が訊いた。

「どれくらいと言われましても」

 恭也は困った顔をした。そしてうーんと考える。

「そうですね……大体俺が八歳くらいまでですかね」

「そうか。士郎からはあれを習っていたのか?」

「ええ、父さんが死んでからは我流になってしまっていますが。それでも父さんには感謝しています。俺に剣を教えてくれましたから」

 恭也は自分の手を見ながら言った。そしてその手をぎゅっと握ると正面から五堂の目を見た。

「もういいですか?」

「ん?ああ、悪かったな呼び止めてよ」

「いえ、いいですよ。それじゃあ、これで失礼します」

 恭也は五堂に一礼すると部屋を後にした。

「あの何かを決意したような目。お前にそっくりだな士郎」

 恭也が出て行ってから五堂は人知れず呟いた。


「ふう」

 部屋を出た恭也は大きく息を吐いた。そして改めて五堂という人物を考えた。

 自分の父、士郎と知り合いだと言っていた。という事は自分はどこかで会っているのかもしれないが覚えが無い。

「もう終わったのか、高町」

 考えごとをしていた恭也に横から声がかかった。恭也はそちらを向く。

「功刀さん。はい、終わりました」

 そこには直純が立っていた。横には由花が寄り添うように立っている。

「そうか。なら行くか。傷の手当ての続きだ」

「はい、分かりました」

「直純さーん」

 恭也が一歩踏み出したとき甲高い声が聞こえた。甲高かったがその声は男の声であった。

「……景か…」

 直純はこころもちげんなりした表情をする。隣、由花は苦笑いを浮かべている。

「直純さん」

 声の主は呆気にとられていた恭也の後ろから現れた。黒髪の少年であった。身長は大体一六〇と言ったところか。

「景、鍛錬はどうした?」

「もう、そっこうで済ませて飛んできました。寄ってくれてもよかったじゃないですか」

 少年―氷魚景は直純の前でピョンピョンと飛び跳ねながら言う。

「そうは言っても鍛錬の邪魔になるだろうが。それに俺にはやることがある」

「それはそうですが。少しくらい稽古をつけてくれても……」

 景は明らかに不服といった感じで答える。

「この前、稽古を南原さんと一緒にしただろうが」

「それじゃあ、意味ないです。俺は直純さんに稽古つけてもらいたかったのに」

 ぶーと頬を膨らませる。直純は勘弁してくれと言わんばかりに顔をしかめた。由花はその光景をくすくすと笑いながら見ている。

 お邪魔してはいけないな。どこかに、と言っても地理が無いから動きようがない。

 恭也は直純たちに背を向けながら考える。

「それで直純さん。あの人は誰なんですか?」

「ん?あいつか?おい、高町」

「は、はいっ!」

 急に呼ばれ恭也は少しうわずった声を上げてしまった。

「な、何ですか?功刀さん」

 振り向き直純を見る。 

「ちょっと来い」

 直純は恭也を呼んだ。恭也は言われるままに近寄る。

「こいつは氷魚景、まだ駆け出しの戦士候補だ。といってもお前には分からないか」

「ええ、ぜんぜん分かりません。俺の名前は高町恭也。よろしく」

苦笑混じりに恭也は言った。

「ご紹介にあずかりました、氷魚景です」

 景は自己紹介をしお辞儀をした。恭也もする。

「……………………」

 き、気まずい。

 ぴたりと会話が途切れ恭也はたじたじとなった。とここで助け舟がでた。

「おっ?直純じゃねーか」

 助け舟は図太い声であった。恭也は声がした方を向いた。そこには長身の男が立っていた。良く言えば精悍、

 悪く言えばチンピラ風の顔をした男であった。

「鷹秋さん。どうしたんですか?こんな所で」

 由花が不思議そうな声で長身の男―南原鷹秋に訊く。鷹秋はこちらに近づきつつ、 

「別に、これと言って用は無かったんだが直純が帰ってきてるって聞いてな、いっちょ稽古にでも付き合ってもらおうかと」

「駄目です。直純さんは俺と稽古するんです。師匠といえどこれは譲れません」

 ずいっと鷹秋の前に出ると景はむーと鷹秋を睨んだ。当の鷹秋は平然と、

「それを決めるのはお前じゃない直純だ。さあ、どっちにする?」

 鷹秋が怖いほどの含み笑いを直純に向けた。

「そうですね……、すみませんが今回は止めておきます他にやることがありますから」

「そうか。なら仕方いか。まあしっかり励んでくれ」

「何に励むんですか?」

 通り過ぎざまに鷹秋は直純の肩をポンと叩く。直純は呆れ顔で訊く。

「まあ、あん時よりはちっとは成長したってことか、あん時めちゃくちゃでかい声出してたからな」

 けけけけと鷹秋は笑う。直純はむっと顔をしかめた。

「まあいい、真矢あたりにでも頼んでみるは」

 じゃあなと鷹秋は行ってしまった。

「変わらないなあの人は」

「それで?やらなくちゃいけないことって何?」

 由花が直純の顔を覗き込むようにして訊く。

「ん?高町の傷の治療の続きと俺が受け持っている奴らの稽古を見ないといけない。この頃やっと真面目に取り組み始めたからな、佐和山

 には感謝しないとな」

「安曇ちゃん?そういえばこの頃やけに仲がいいよね?安曇ちゃんと」

「そうか?いつもと変わらないと思うがな。佐和山の稽古のやり方を参考にさせてもらっている」

 直純は腕を組み答えた。

「直純さーんそれじゃあ、俺も一緒に稽古つけてくださいよ」

 景が直純に向かって言った。

「駄目だ。それにお前の師匠は南原さんのはずだ、あの人に頼んで稽古をつけてもらえばいいだろう。それが駄目なら自主的に稽古しろ」

「俺は師匠なら直純さんの方がよかったですよ。師匠の修行なんかやる気がないような簡単なものばっかりですし。組み手もあんまりして

 くれませんから。いっつも自分たちだけで組み手してます」

 景ははあと大きくため息をついた。

 しかし、直純は、まあ当然だろうと考えていた。幾ら稽古の組み手だろうと鷹秋が手加減をするとは考えられない。

 怪我をさせるより自分たちでさせた方がいいだろうとの考えなのだろう。そんな鷹秋の考えを知ってか知らずか景はぐちぐちと言う。

「さてと高町、行くぞ」

「え、は、はい」

「直純さーん」

「くどいぞ」

歩きながら直純はなおも言ってくる景にしかめ面で答える。しかし景はあきらめようとせず言う。

「ふふふ。つけてあげればいいのに稽古。直純君も頑固だな」

 少し後ろを歩く由花がおかしそうに口元を押さえながら呟く。

「あの都築さん」

 その横を歩く恭也が由花に話しかけた。

「私の事は由花でいいよ、私も名前で呼ばせてもらうから。それから敬語は止めてね」

 由花はやんわりと恭也に言った。

「え。分かりました」

「また敬語」

 頬を膨らませ由花は恭也に言う。恭也はすみませんと謝った。謝ってまた敬語になっているのに気づいた。由花がおかしそうに声を出し

 て笑う。つられて恭也も笑った。

「それで由花さんは功刀さんとは古い知り合いなんですか?」

「んー、古い知り合いじゃなくて正解は一緒に修行した仲かな」

「へー、修行ですか」

 恭也は由花に直純についていろいろと訊いた。由花はいろいろと直純のことについて答えてくれた。初めは自分を負かすことばっかり

 考えていたとか、一緒に修行して分かったことだとか。

「高町、着いたぞ」

 少しして直純が呼んだ。そこは一軒の家の前であった。

「ここは?」

「お前の傷の治療場所だ。入るぞ」

 言うが早いか直純はさっさとドアを開け入った、ノックを忘れずに。

「こんにちは。恵果さんいますか?」

 直純は誰かの名前を呼んだ。

「はいはい、いますよ。ちょっと待って、おっ!直純じゃないか」

 直純の呼びかけにすぐさま奥から出てきた若い女性は直純の姿を見るとやたらうれしそうな表情をした。

 白衣を着たショートボブのその女性―恵果は直純の前まで歩み寄ると、

「どうした?また厄介ごとでも抱え込んだのか?それとも」

 ふふふふふふふ、と怖いくらいの笑みを浮かべた。思わず恭也は後ずさった。

「いえ、今日は一人治してもらいたい男がいまして」

 さりげなく男という部分を強調する直純。男と聞き恵果はきらきらと目を輝かせた。

「何々?いい男?どこ?今すぐつれてきて」

 一気に捲くし立てた。直純は少し苦笑ぎみに笑い。

「こいつなんですが」

 恭也を前に出させた。

「ほーう。ふーむ。なるほど。合格」

 ぐるぐる恭也の回りを回っていた恵果は恭也の前に戻ってくると肩に手を置き言った。

「え?一体何がですか?」

「それじゃあ、俺はこれから用があるから終わった頃にまた来る」

「それじゃあね。恭也君」

 戸惑う恭也を他所に二人はさっさと出て行ってしまった。

「え?ちょ、ちょっと待って」

 二人を追おうとした恭也だが肩を掴まれており動けない。

「待つのはお前だ。さあ、向こうで怪我を治さないとな」

 そのまま恭也を引きずるようにして連れて行く。

「あの、治療ってどんなことを」

「ん?聞きたい?聞きたいの?」

「…………いえ、やっぱりいいです」

「そう?それじゃあ行きましょう」

 有無を言わせず恵果は恭也を家の奥へと連れ込んだ。



「んー?ここかな?あってるかな?」

 本来強い結界で守られているはずの『院』の前に銀髪の少年が立っていた。

 それと傍に三体の妖魔の姿があった。一体は二足歩行の巨人と言える体躯の異形。三メートルといったくらいの身長のその異形の肩に少

 年は乗っている。腕は丸太のように太かった。

 その次に犬より三回りほど大きな四足獣。赤い瞳をじっと目の前に向けられていた。大きさからいくと豹くらいだろうか、四肢からは

 かなり尖った爪が見えていた。全身を覆う体毛は紫色をしている。

 そして最後に異常なほど大きな鳥であった。オウムのような容姿をしていたが大きさが桁違いに大きい。巨人の妖魔よりも二回り大きい

 その鳥の妖魔は後ろに待機している。しかしそれ以外に夥しい数の禍々しい邪気がその場には漂っている。

「さてと、これからちょっとしたパーティーの始まりだよ。みんな準備はいいかな?」

 まるで遊びを始める事を告げるような軽い口調で少年は言う。それそれ妖魔は頷いた。少年はそれを見ると満足そうに頷くと、

「さあ、行こうか」

 後ろに待機させていた鳥の妖魔に乗った。巨人の妖魔も豹の妖魔のそれにならって鳥の妖魔に乗る。

 それでもまだ幾分かの余裕があった。

「行け。ケルピー」

「クルルルルル」

 鳥の妖魔―ケルピーは静かに鳴くとはばたき上空へと飛翔した。

 それと同時に背後の闇から夥しい数の妖魔が飛び出した。




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 どうも、この度はこの駄文の二話目を読んでいただきまことにありがとうごさいます。

 なにやらシリアスとは遠いような代物になりつつありますがなんとか元に戻して行きたいです。

 次は戦闘シーンを中心に書くかもしれません。それにならってかなり読みにくいかもしれませんが

 ご了承ください。 

 感想や駄目だしなどございましたら遠慮なしに掲示板にてご報告してください。

 では、またできれば読んでください。


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